剣護身術 公式記録

犯罪機会論とは?「不審者」ではなく「場所」を見る防犯の考え方

防犯というと、「不審者に気をつける」「知らない人についていかない」といった、人を見る対策を思い浮かべるかもしれません。しかし、犯罪を起こそうとしている人を外見だけで見分けることには限界があります。そこで犯罪機会論では、「誰が危険か」だけを考えるのではなく、「どのような場所・状況・環境で犯罪の機会が生まれやすいのか」に目を向けます。

犯罪者の心を読むのではなく、景色を読む。危険性の高い環境を事前に察知し、避ける。さらに、改善できる環境は犯罪が起こりにくい状態へ変えていく。これが犯罪機会論を防犯に活用する大きな目的です。

「不審者を探す」だけでは防犯にならない

人を見ることがまったく無意味なのではありません。しかし、服装、年齢、外見だけで人の危険性を正確に判断することはできません。大切なのは、特定の人を決めつけることではなく、自分のいる状況を把握することです。周囲から見えにくくなっていないか、人通りが極端に少なくないか、何かあったときどちらへ逃げられるか、助けを求められる場所が近くにあるかを意識します。

犯罪機会論とは

犯罪機会論は、犯罪者の性格や動機だけを見るのではなく、犯罪が実行されやすい「機会」や環境に注目する考え方です。剣護身術では、危険を感じた後に身体を使うことだけを護身とは考えていません。危険な環境に気づき、回避し、必要であれば環境そのものをより安全にしていくことも防犯・護身の一部です。

犯罪が起こりやすい景色の基本:「入りやすい」「見えにくい」

犯罪機会論では、犯罪が起こりやすい環境を考えるための手がかりとして、「入りやすい」「見えにくい」という視点があります。「入りやすい」とは、標的へ近づきやすく、その場から離れやすい環境です。「見えにくい」とは、周囲から異変や行為が把握されにくい環境です。

ただし、暗い場所だけが危険という単純な話ではありません。人通りが多い場所でも、不特定多数の人がいて互いに注意を向けにくいときには、異変が見えにくくなる場合があります。明るさ、人通り、見通し、逃げ道、周囲の状況などを複数の要素として見ることが重要です。

1.「見えにくい場所」に注意する

建物や植栽などで周囲から見えにくい場所、人目につきにくい場所、死角になっている場所では、何か起きた場合に周囲が異変へ気づきにくくなる可能性があります。「ここで何か起きたら、周りの人から見えるだろうか」という視点を持つことを勧めています。

2.「助けを求められる場所」があるかを見る

コンビニ、店舗、駅員のいる場所、交番、人のいる施設など、助けを求められる場所を普段から把握しておくことも護身です。「何かあったら、あそこへ入ろう」という選択肢を持つだけでも、危険を感じた際の判断が変わります。

3.「逃げ道」があるかを見る

護身術では相手だけを見ないことが重要です。相手を見ると同時に、逃げる方向を見る。エレベーター、地下通路、駐車場、路地、駅のホームなどでは環境が異なります。「もしここで何か起きたら、自分はどちらへ動けるだろう」と一度考えてみます。護身術で最も大切な「間合い」もあわせてご覧ください。

「いつも気をつけて」ではなく、景色を合図にする

人は24時間、同じ強さで警戒し続けることはできません。そこで「入りやすく、見えにくい」と感じる場所に入ったら少し注意を上げる、といった判断基準を持ちます。漠然と怖がるのではなく、必要な場面で周囲を見るための合図にする考え方です。歩きながらスマートフォンを見続けず、ときどき顔を上げ、前や周囲、人の流れを見ることも大切です。危険察知についての解説も参考にしてください。

危険な場所を避けるだけでなく、環境を変える

犯罪機会論の目的は、個人が危険な場所から逃げることだけではありません。「入りやすく、見えにくい」環境を、「入りにくく、見えやすい」環境へ改善していくことにもあります。危険を見つける、なぜ危険なのか考える、改善できることを考える。そこまでが持続的な防犯につながります。

地域安全マップで景色を読む

地域安全マップは、地図を作ること自体が目的ではありません。通学路や公園などを歩き、「ここは入りやすくないか」「周囲から見えるだろうか」「死角はないか」「誰かが異変に気づける環境か」を考えることで、普段何気なく見ていた景色から危険性を読み取る力を養います。

抵抗性・領域性・監視性で考える

環境を点検するときは、抵抗性・領域性・監視性という視点も役に立ちます。抵抗性は鍵や防犯ブザー、避難訓練、護身術など、危険に対して身を護る備えです。領域性はフェンス、受付、ゾーニングなど、部外者が簡単に入り込めない環境づくりです。監視性は照明、見通し、防犯カメラ、植栽管理、地域の見守りなど、異変に気づきやすい状態をつくることです。

護身術や防犯ブザーが必要になる段階では、危険がかなり近づいていることもあります。だからこそ、その前段階で領域性や監視性を高め、抵抗性の出番そのものを減らすことが大切です。

学校・家庭・企業・地域で使える考え方

家庭では、通学路や公園を親子で歩き、「入りやすい・見えにくい」を探す。学校では、子ども自身に景色を読ませ、「どんな場所では注意するのか」という判断基準を育てる。企業では、建物への出入り、受付、死角、照明、従業員の動線を点検する。地域では、危険な環境を発見し、改善へつなげる。こうした取り組みは、怪しい人探しではなく、犯罪の機会を減らすことへ向かうものです。

危険が接近したときの「抵抗性」

どれだけ注意していても、すべての危険を事前に避けられるとは限りません。逃げることが難しく、相手との距離が縮まってしまった場合には、身体の動きだけではなく、声も身を護るための重要な手段になります。剣護身術では、まだ距離がある場合は青眼で距離を保ち、声で境界を伝えることがあります。さらに接触するような状態では、パームガードで自分の身体を護れる状態をつくりながら、可能であれば衝突を避けるための対話も試みます。

構えることは戦うことではありません。声を出すことは威嚇だけでもありません。声・構え・距離を組み合わせ、戦わずに済む可能性を最後まで残しながら自分の安全を失わないことが目的です。詳しくは危険を感じたとき「声」はどう使う?で解説しています。

危険を避けることは「臆病」ではない

危険な場所へ入らない。違和感があれば離れる。距離を取り、逃げ道を見て、必要なら助けを求める。戦わずに済む判断ができることも護身術の力です。これは剣護身術で大切にしている「負けない戦い」につながっています。

護身術は「襲われる前」から始まっている

犯罪機会論を学ぶ目的は、街のすべてを危険だと思うことではありません。どこで注意し、どこでは過度に警戒しなくてもよいのか。その判断基準を持つことです。人を疑い続けるのではなく、景色を見る。危険な環境に気づいたら避け、改善できる場所なら、より入りにくく見えやすい環境へ変えていく。そして、それでも避けられない危険に直面したときのために、逃走や護身術を身につけておく。これもまた、剣護身術が考える「負けない戦い」です。

よくある質問

危険な場所には共通点がありますか?

一つの条件だけで危険か安全かを断定することはできません。ただ、周囲から見えにくい、人の助けを求めにくい、逃げる方向を確保しにくいなど、危険が発生した際に対応しにくい環境には注意する価値があります。

見た目で不審者を判断できますか?

外見だけで人の危険性を正確に判断することは困難です。特定の服装や属性を危険と決めつけるのではなく、行動、距離、周囲の環境、自分が感じた違和感など複数の情報から安全側に判断することが重要です。

犯罪が起きている場所を事前に調べる方法はありますか?

地域によっては警察などが犯罪発生情報を公開しています。東京都では警視庁の犯罪情報マップで、犯罪情報のほか、子どもや女性への声かけ・つきまといなどの前兆事案情報も確認できます。

護身術を習えば危険な場所でも大丈夫ですか?

いいえ。護身術を学んでいることを理由に危険な場所へ入るべきではありません。技術は安全を保証するものではなく、危険を避けられるのであれば回避を優先します。

解説・監修

ヒーロ黒木(黒木博文)
剣護身術 代表
一般社団法人 国際護身武道連盟(IGBA)代表理事
防犯護身コンサルタント

企業・自治体・教育機関などで防犯・護身術を指導。子ども達を護れ!! 学校プロジェクトでは、護身技術だけではなく、犯罪機会論や危険察知、逃走などを含めた防犯教育を行っています。

公的機関の参考情報

本記事は一般的な防犯・護身情報を提供するものであり、個別の状況における安全を保証するものではありません。警視庁では、防犯環境設計として見通し・照明・人の目などの環境面から犯罪を防ぐ考え方を紹介しています。

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